
生成AIの普及でGPU計算資源の需要が急拡大するなか、大学のスーパーコンピュータも世代交代が進んでいます。2024年4月に東京科学大学のTSUBAME4.0が稼働し、2025年1月には東京大学と筑波大学が共同運用するMiyabiが正式運用を開始しました。2026年に入ってからも筑波大学のSirius(3月)、北陸先端科学技術大学院大学のHAKUSAN(3月)が動き出し、10月1日には名古屋大学の後継機「不老・弐」が稼働しました。本記事では、各大学のセンターが公表する仕様とTOP500(2026年6月版)をもとに、大学が保有するスーパーコンピュータの理論ピーク性能を集計し、ランキングとして整理しました。
ランキングの評価方法

- 出典:各大学の情報基盤センター・計算科学センター・附置研究所の公式仕様ページ、TOP500 2026年6月版(第67版)、HPCI 令和8年度資源一覧。取得日は2026年9月30日です(名古屋大学「不老・弐」の稼働と仕様は10月5日に確認)。10月13日に全校の値を公式ページであらためて確認し、東北大学(31.3→31.8 PFLOPS)と京都大学(12.3→13.6 PFLOPS)の値を更新しました。これにより、京都大学が第6位、九州大学が第7位に入れ替わっています。
- 対象:日本の大学(附置研究所・センターを含む)が設置・運用し、2026年10月13日時点で稼働中のスーパーコンピュータ。
- 指標:倍精度(FP64)理論ピーク性能(PFLOPS)の大学別合計。GPU搭載機はGPUを含む公式理論値で統一しています(GPUの倍精度性能は各大学の公表値に従います)。実測値(LINPACK)ではありません。
- 除外:理化学研究所「富岳」、産業技術総合研究所ABCI、民間クラウド、大学共同利用機関は大学ではないため対象外です。運用終了したシステムも含めません。
- 共同運用:東京大学と筑波大学が共同で調達・運用するJCAHPCのMiyabi(80.1 PFLOPS)は、2大学をまとめた1枠として順位に含めます。1つの大学が複数の枠に重ならないよう、両大学が単独で運用するシステム(東京大学 40.4 PFLOPS、筑波大学 20.0 PFLOPS)は順位から外し、参考として掲載します。
- 数値の扱い:公式に倍精度理論値がない場合、TOP500のRpeakがあるものはその値を採用して注記し(東京工科大学)、いずれもないものは合計に含めていません(東京大学医科学研究所SHIROKANE8など)。公式の値が1ノードあたりで示されている場合は、ノード数を掛けて合計しています(京都大学Gardeniaの演算加速器部)。
- 名寄せ:東京工業大学と東京医科歯科大学は「東京科学大学」として集計しています。
- 名古屋大学:「不老」が2026年3月31日で運用を終え、後継の「不老・弐」が2026年10月1日に稼働しました。不老・弐の値で集計しています。
TOP10
| 順位 | 大学 | 主要システム | 理論ピーク性能(PFLOPS) | 主なポイント |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 東京大学・筑波大学(共同運用) | Miyabi(JCAHPC) | 80.1 | 2大学で共同調達・運用。大学のシステムで国内最高位 |
| 2 | 東京科学大学 | TSUBAME4.0 | 66.8 | 単独大学で国内最大。H100を960基搭載 |
| 3 | 東北大学 | AOBA-S/A/B、MASAMUNE-弐、AFI-NITY II | 31.8 | ベクトル型AOBA-Sが21.05 |
| 4 | 大阪大学 | SQUID、OCTOPUS | 18.9 | 3構成のSQUIDに新OCTOPUSを追加 |
| 5 | 名古屋大学 | 不老・弐 | 16.1 | 2026年10月1日稼働。B200搭載のType IIが9.03 |
| 6 | 京都大学 | Camphor 3、Laurel 3、Cinnamon 3、Gardenia、基研 Heian | 13.6 | HBM搭載CPUのCamphor 3が7.63 |
| 7 | 九州大学 | 玄界 | 13.4 | CPU 7.76+GPU 5.63。2024年7月稼働 |
| 8 | 北海道大学 | Grand Chariot 2 | 9.0 | 2025年更新。H100ノードを新設 |
| 9 | 東京工科大学 | 青嵐(SEIRAN) | 3.7 | 私立大学で唯一TOP500に掲載(Rpeak) |
| 10 | 北陸先端科学技術大学院大学 | HAKUSAN | 2.0 | 液冷CPUクラスタ。2026年3月稼働 |
| 参考 | 東京大学(単独) | Wisteria/BDEC-01、物性研 ohtaka・kugui | 40.4 | 第1位のMiyabiとは別に単独で運用 |
| 参考 | 筑波大学(単独) | Sirius、Pegasus | 20.0 | 第1位のMiyabiとは別に単独で運用 |
11位以下は、一次情報で1 PFLOPS級の稼働中システムを確認できる大学が見つからなかったため掲載していません。
各大学の解説
第1位 東京大学・筑波大学(Miyabi・80.1 PFLOPS)

最先端共同HPC基盤施設(JCAHPC)は東京大学情報基盤センターと筑波大学計算科学研究センターが共同運営する施設で、2大学が共同でスーパーコンピュータを調達・運用する国内唯一の例です。Miyabiは2025年1月14日に正式運用を開始し、NVIDIA GH200を搭載する1,120ノードのMiyabi-G(78.8 PFLOPS)と、Xeon Max 9480を搭載する190ノードのMiyabi-C(1.29 PFLOPS)で合計80.1 PFLOPSです。TOP500 2026年6月版では世界第52位(Rmax 46.80 PFLOPS)で、大学のシステムとして国内最高位です。
両大学は、Miyabiとは別に単独でもシステムを運用しています。東京大学は情報基盤センターのWisteria/BDEC-01と物性研究所のohtaka・kuguiで計40.4 PFLOPSです。筑波大学は計算科学研究センターのSiriusとPegasusで計20.0 PFLOPSです。単独の値は順位に含めず、本記事の末尾に参考として掲載しています。
第2位 東京科学大学(66.8 PFLOPS)

TSUBAME4.0は2024年4月にすずかけ台キャンパスで運用を開始したシステムで、HPE Cray XD665の計算ノード240台に、AMD EPYC 9654(96コア)を2基とNVIDIA H100 SXM5(94GB)を4基ずつ搭載します。GPUは合計960基で、理論ピーク性能は倍精度66.841 PFLOPS、半精度952.441 PFLOPSです。前世代TSUBAME3.0に比べ半精度で20倍の理論ピーク性能を持ちます。単独の大学が運用するシステムとしては国内最大で、TOP500 2026年6月版では世界第62位(Rmax 39.62 PFLOPS)に位置し、HPCIの共用資源としても提供されています。
第3位 東北大学(31.8 PFLOPS)

サイバーサイエンスセンターのAOBA-Sは2023年8月1日に運用を開始したNEC SX-Aurora TSUBASAのベクトル型システムで、504台のベクトルホストに4,032基のベクトルエンジンを備え、理論演算性能21.05 PFLOPS、メモリバンド幅9.97 PB/sを実現しています。2020年10月稼働のAOBA-A(1.48 PFLOPS)とAOBA-B(278.5 TFLOPS)も引き続き提供中です。附置研究所では、金属材料研究所の材料科学専用機MASAMUNE-弐(4.603 PFLOPS、2025年6月2日運用開始。2026年10月にNVIDIA H200搭載の2ノードを増設)と、流体科学研究所のAFI-NITY II(4.4 PFLOPS、2024年8月稼働)が加わり、5システムの合計は31.8 PFLOPSです。
第4位 大阪大学(18.9 PFLOPS)

D3センターのSQUIDは2021年5月6日にサービスを開始した高性能計算・データ分析基盤で、汎用CPUノード1,520台(8.871 PFLOPS)、A100を8基搭載するGPUノード42台(6.797 PFLOPS)、SX-Aurora TSUBASAのベクトルノード36台(0.922 PFLOPS)の3構成で合計16.591 PFLOPSです。サービス終了は2027年6月30日の予定と公表されています。2025年9月1日には次世代計算・ストレージ基盤OCTOPUSが試験運用を始め、同年12月に有償サービスへ移行しました。Xeon 6980P(128コア)を2基搭載する140ノードで2.293 PFLOPSを持ち、研究データの来歴管理機能を備えています。
第5位 名古屋大学(16.1 PFLOPS)

情報基盤センターの「不老・弐」は、2026年3月31日に運用を終えた「不老」の後継として、10月1日に稼働しました。CPUのみのType Iと、GPUを備えたType IIの2系統で構成します。Type Iは、AMD EPYC 9965(192コア)を2基ずつ搭載する水冷ノード256台です。理論演算性能は合計で倍精度7.07 PFLOPSです。Type IIはNVIDIA GB200 NVL4を採用しています。Grace CPU 2基とBlackwell B200 GPU 4基を搭載するノード54台で、倍精度9.03 PFLOPSを持ちます。AI向けの半精度(FP16)では、スパース性を考慮した値で1.048 EFLOPSに達します。2系統の合計は倍精度16.1 PFLOPSで、旧システム「不老」の15.88 PFLOPSをやや上回ります。センターは、AIエージェントを活用したAI for Scienceの支援も強化する方針です。
第6位 京都大学(13.6 PFLOPS)

学術情報メディアセンターのシステムは、Camphor 3(Intel Xeon CPU Max 9480を搭載する1,120ノード、7.63 PFLOPS)、汎用のLaurel 3(370ノード、2.65 PFLOPS)、大容量メモリのCinnamon 3(16ノード、114.6 TFLOPS)、A100を4基ずつ搭載するGardenia(16ノード)で構成されます。2023年5月に初期構成で正式運用を始め、10月に最終構成へ移行しました。Gardeniaは、プロセッサ部の42.59 TFLOPSに加え、演算加速器部の倍精度性能が1ノードあたり78 TFLOPS以上と公表されているため、16ノード分の1.248 PFLOPSを合計に含めています。附置研究所では基礎物理学研究所のHeian(82ノード、GPUサーバ込みで1.88 PFLOPS)が2026年4月に稼働しました。合計は13.6 PFLOPSで、九州大学(13.4 PFLOPS)をわずかに上回ります。
第7位 九州大学(13.4 PFLOPS)

情報基盤研究開発センターの玄界(Genkai)は2024年7月に稼働した富士通PRIMERGY CX2550M7ベースのシステムです。Xeon Platinum 8490Hを2基搭載するCPUノード1,024台のノードグループA(7.47 PFLOPS)、これにH100を4基加えたノードグループB 38台、H100を8基搭載するノードグループC 2台で構成され、総理論演算性能はCPU FP64 7.76 PFLOPS、GPU FP64 5.63 PFLOPSです。機械学習向けのFP16・BF16では166.22 PFLOPSに達します。学内外の研究者に加え、HPCIとJHPCNの公募型共同研究にも資源を提供しています。
第8位 北海道大学(9.0 PFLOPS)

情報基盤センターは2025年4月に新しい学際大規模計算機システムを稼働させ、7月から本格運用に入りました。演算システムGrand Chariot 2は、Intel第5世代Xeonを搭載する計算ノード504台で構成され、うち24台にNVIDIA H100を4基ずつ搭載します。理論演算性能は9 PFLOPSで、旧システムの2.27倍です。オールフラッシュ構成の16.95 PBストレージと研究クラウドシステムを併設し、Jupyter環境やKubernetesクラスタも提供します。TOP500 2026年6月版では第323位に掲載されています。
第9位 東京工科大学(3.7 PFLOPS)

AIテクノロジーセンターの青嵐(SEIRAN)は、NVIDIA DGX B200を12ノード(GPU 96基)で構成するAIスーパーコンピュータです。2025年6月に構築、10月2日に公開され、12月に本格稼働しました。大学はAI演算性能を理論0.9 EFLOPSと公表していますが、倍精度の理論値は公表していないため、本ランキングではTOP500 2026年6月版のRpeak 3.66 PFLOPS(Rmax 3.31 PFLOPS、世界第398位)を採用しています。同版で国内の私立大学として唯一のランクインであり、HPCGでも世界第88位を記録しました。
第10位 北陸先端科学技術大学院大学(2.0 PFLOPS)

AI・HPC基盤HAKUSANは、旧システムKAGAYAKIの後継として2026年3月に運用を開始しました。xFusion製のラックスケール液冷サーバーFusionPoDを採用し、Intel Xeon 6980Pを2基搭載する1U液冷ノード124台をInfiniBand NDRで接続しています。理論演算性能は2.03 PFLOPS、CPUコア数は31,744、総メモリ容量は186 TiBです。キャビネット全体を一体的に冷却することで高密度実装と電力効率を両立させ、材料科学のシミュレーションやAI for Scienceに活用する方針です。2027年春には新GPUの追加を予定しています。
参考 東京大学(単独 40.4 PFLOPS)
情報基盤センターのWisteria/BDEC-01は2021年5月14日に運用を開始した「計算・データ・学習」融合システムで、富士通A64FXを搭載する7,680ノードのOdyssey(25.9 PFLOPS)と、Xeon Platinum 8360YとNVIDIA A100を8基ずつ搭載する45ノードのAquarius(7.2 PFLOPS)で合計33.1 PFLOPSです。これに物性研究所のシステムB「ohtaka」(2026年7月の縮小後で6.37 PFLOPS)とシステムC「kugui」(0.97 PFLOPS)を加えました。筑波大学と共同運用するMiyabi(80.1 PFLOPS)は、第1位として計上しています。
参考 筑波大学(単独 20.0 PFLOPS)
計算科学研究センターのSirius(PACS12.0)は2026年3月27日に稼働したユニファイドメモリ型システムで、AMD Instinct MI300A APUを4基ずつ搭載する24ノードで理論ピーク性能11.9 PFLOPSを持ちます。CPUとGPUがHBM3にキャッシュコヒーレントにアクセスできる点が特徴です。既存のPegasus(150ノード、Xeon Platinum 8468とNVIDIA H100 PCIe、8.1 PFLOPS)は2022年12月に試験稼働を始めた「ビッグメモリ」型で、CPUとGPUをPCIe Gen5で接続した世界初の事例とされています。同センターは東京大学とともにMiyabiの共同運用主体でもあり、Miyabiは第1位として計上しています。
まとめ
大学のスーパーコンピュータでは、2024年にTSUBAME4.0と玄界、2025年にMiyabiとGrand Chariot 2が稼働しました。2026年にはSirius、HAKUSAN、不老・弐が加わり、毎年のように大型更新が続いています。上位10枠の合計は約255 PFLOPSで、順位から外した東京大学と筑波大学の単独分を加えると約316 PFLOPSに達します。GPU中心の構成が主流になる一方、東北大学のベクトル型や筑波大学のユニファイドメモリ型など、アーキテクチャの多様性も保たれています。10月1日に稼働した名古屋大学の「不老・弐」は第5位に入りました。大阪大学のSQUIDは2027年6月にサービス終了を予定しており、順位は今後も動きます。共同研究先や計算資源の選定では、合計値だけでなく構成や利用制度まで確認することをおすすめします。