日本の大学が産業界と連携して行う研究は、イノベーション創出や地域経済の活性化に不可欠です。企業や官公庁と共同で研究開発を進めることで、大学の知見が社会に還元され、新産業の育成につながります。
また、大学側にとっても外部資金の獲得により研究基盤が強化され、優秀な人材育成や設備投資が可能になります。近年、政府も産学官連携を政策的に後押ししており、大学と企業のオープンイノベーションは年々拡大傾向にあります。
こうした背景のもと、本記事では産学共同研究収入および受託研究収入の総額に基づく国内大学ランキングを紹介します。
評価方法

今回のランキングは文部科学省「大学等における産学連携等実施状況調査」の最新結果にもとづいて作成しています。この調査は全国の国公私立大学(短期大学含む)や高等専門学校を対象に毎年行われており、共同研究・受託研究・治験・知的財産収入など産学官連携の実績を網羅しています。
民間企業および官公庁から大学が受け入れた共同研究費と受託研究費の年間総額を集計し、金額の大きい順に上位10大学を抽出しました。なお対象年度は直近の財政年度(令和4年度)で、金額は百万円単位から概算し億円単位に丸めて表示しています。
また、引用元データでは企業からの資金と官公庁からの資金が区別されていますが、本ランキングではそれらを合算しています。
総合ランキング(研究収入総額 上位10大学)
以下の表は、大学ごとの共同研究費+受託研究費の年間総額(億円)でランキングしたものです。
1位は東京大学で、産学連携による研究収入は突出して多く、約550億円にのぼります。東京大学は2位の大学を大きく引き離しており、日本の研究大学の中でも産学官連携収入で群を抜いています。
2位以下には旧帝大を中心とする国立大学が並び、民間資金に加えて官公庁からの大型プロジェクト受託が収入を支えています。唯一の私立大として慶應義塾大学がトップ10入りしており、医学部などを通じた企業からの研究受入が寄与しています。
| 順位 | 大学名 | 研究収入総額(億円) |
|---|---|---|
| 1位 | 東京大学 | 約550億円程度 |
| 2位 | 大阪大学 | 約300億円程度 |
| 3位 | 京都大学 | 約270億円程度 |
| 4位 | 東北大学 | 約230億円程度 |
| 5位 | 名古屋大学 | 約150億円程度 |
| 6位 | 九州大学 | 100億円台後半 |
| 7位 | 東京科学大学 | 100億円台前半 |
| 8位 | 北海道大学 | 約80億円前後 |
| 9位 | 慶應義塾大学 | 約40億円前後 |
| 10位 | 筑波大学 | 約30億円台 |
※金額は共同研究費と受託研究費の合計(民間企業・官公庁からの受入分)。億円=100百万円。
※出典:文部科学省「令和4年度 大学等における産学連携等実施状況」集計結果、および各大学の財務諸表等。民間企業からの資金に関しては令和5年度調査の速報も参照。
1位:東京大学

東京大学(東大)は日本を代表する総合大学として、産学官連携収入で首位を独走しています。東大は年間で数百件規模の共同研究や受託研究を受け入れており、幅広い分野で企業・官公庁と協働しています。
例えば、自動車・電機・素材といった大企業との共同プロジェクトから、官公庁(防衛省、環境省など)の国家プロジェクト受託まで、多彩なパートナーとの連携実績があります。東京大学には産学協創を推進する専門部局(産学協創推進本部)が設置され、契約手続きの迅速化や包括連携協定の締結など組織的な支援体制が整っています。こ
うした戦略により、東大は企業との共同研究件数で常に全国トップ(2022年度は1911件)を維持し、研究費の面でも企業から約184億円(2023年度)という突出した資金を集めました。
さらに、独立行政法人等から委託される大型研究も非常に多く、財務諸表によれば受託研究収入の大部分が国の研究機関経由の資金となっています。世界トップレベルの研究力を背景に、「オールラウンドな産学官連携」で巨額の外部資金を獲得しているのが東大の最大の特徴です。
2位:大阪大学

大阪大学(阪大)は西日本の産学連携拠点として東大に次ぐ研究収入を得ています。2022年度の共同研究費受入額は過去最高の108億円に達し、そのうち民間企業からが102億円と初めて100億円を超えました。大阪大学の特徴は、企業ニーズを積極的に取り込む「共創」の取組みです。
2018年に共創機構を設立し、企業と大学の組織対組織による連携を推進してきました。具体的には、企業資金で研究室を運営する共同研究講座や、企業と大学が共同で設備を構える協働研究所を多数設置しています。2022年度はこれら大型の共同研究講座が109件と過去最多となり、研究費受入額増加に大きく貢献しました。
分野としては、材料・化学、医薬、情報科学などで大企業との包括提携が多く、関西の産業集積(製薬や電機、自動車部品など)と結びついた研究が盛んです。また大阪大学は医学部附属病院を持ち、医療系の臨床研究でも企業や自治体との連携実績があります。大学全体で「産学共創」を掲げ、大型プロジェクトを誘致して研究収入を伸ばしている点が阪大の強みです。
3位:京都大学

京都大学は基礎研究の強さを活かしつつ、近年は企業との応用研究にも注力しています。特に再生医療や創薬の分野では世界的な存在感があり、iPS細胞研究所(CiRA)を中心に製薬企業との共同研究が活発です。
例えば、京都大学はiPS細胞技術の実用化に向けて大手製薬企業と連携し、新薬開発や細胞治療法の研究に取り組んでいます。またエネルギー・環境分野でも、京大発の触媒技術や材料科学の知見をもとに企業と共同開発を行っています。産官学連携収入では東大・阪大に次ぐ規模で、企業からの研究資金は約111億円(2023年度)と全国3位でした。
さらに京都大学は特許収入が多い点も特徴で、大学の知的財産収入ランキングではトップ(約10億円)を占めています。これは基礎研究の成果を企業と共同で特許化・事業化していることを示しており、大学発ベンチャーの育成にもつながっています。
京都大学は「自由の学風」の下、基礎から応用まで幅広い研究展開をしてきましたが、その成果が近年は企業連携という形で社会実装に結実しつつあります。製薬・医療から環境エネルギーまで、京大の強みを活かした先端領域での産学官連携が特徴と言えるでしょう。
4位:東北大学

東北大学は東日本有数の研究大学として、材料科学や電子デバイス分野の産学連携に強みがあります。東北大学発の技術として有名なものに青色発光ダイオードや高速通信デバイスがあり、これらは企業との共同研究から生まれました。
同大学は金属材料研究所や電気通信研究所など世界トップレベルの研究拠点を持ち、自動車メーカー、電機メーカー、素材メーカーとの共同研究プロジェクトが数多く進行中です。共同研究件数では常に全国上位で、2022年度も1,400件(全国2位)を超える企業連携プロジェクトを抱えていました。
産学連携収入は約230億円規模と推計され、企業からの受入額は約83億円(2023年度)で全国4位となっています。また、東北大学は地域産業との結びつきも強く、地元宮城県・東北地域のメーカーや自治体との共同研究を通じて震災復興技術、防災・エネルギー技術の開発にも取り組んできました。
産学官連携推進のため学内に産学連携機構を置き、特許のライセンスや技術移転も積極的です。総じて、東北大学は材料・デバイス系の強みを軸に地域と世界を結ぶ産学連携を展開し、安定した研究資金の確保につなげています。
5位:名古屋大学

名古屋大学は中部圏の産業と密接に連携し、とりわけ自動車産業との共同研究が顕著です。トヨタ自動車をはじめとする中京圏の自動車関連企業とのつながりが深く、次世代モビリティ、AI、自動運転技術などの研究開発を共同で進めています。例えば、名古屋大学はトヨタグループとAI技術研究センターを設立し、自動車の知能化に関する基礎研究から応用まで取り組んでいます。
また、航空宇宙分野でも、三菱重工業などと協力してスペースデブリ除去や航空機材料の研究を行っています。産学連携収入はトップ5入りする約150億円規模で、企業からの研究資金約52億円(2023年度)は全国5位でした。名古屋大学は医学部も有しており、医療機器メーカーとの共同研究や臨床試験受託も収入源となっています。
さらに、近年は文部科学省の大型プロジェクト(例えば量子技術や元素戦略プロジェクト)の中核機関に選ばれることも多く、国からの受託研究費も増加傾向にあります。中部産業圏のニーズに応えつつ、自動車・航空宇宙・量子技術といった国家的プロジェクトを取り込み、研究収入を拡大している点が名古屋大学の戦略と言えます。
6位:九州大学

九州大学は西日本最大級の総合大学で、特にエネルギー・環境分野の産学官連携で高い評価を得ています。福岡県は水素エネルギー実証や蓄電池開発の拠点となっており、九大はトヨタや地元企業と協力して水素社会実現に向けた研究センターを運営しています。
また、カーボンニュートラル関連では石油会社や化学メーカーと共同でCO₂削減技術や代替燃料の研究を進めています。産学連携収入は100億円台後半と推定され、企業からの受入額ランキングでは国内トップ10圏内です。九大は工学部発祥の産学協力研究院を設置し、企業とのマッチングや共同研究契約の円滑化に努めています。
分野的には自動車・材料・ICTでも大手企業との連携実績があり、近年は半導体分野での地域連携(熊本に進出する台湾TSMC関連プロジェクトなど)にも参画しています。加えて、農学・水産学系の強みを生かし食品メーカーとの共同研究もみられます。地理的にアジアに近い強みから、海外企業や海外大学との連携にも開かれており、総合力で産学官連携を推進しているのが特徴です。
7位:東京科学大学

東京科学大学(旧:東京工業大学)は学生・教員数では総合大学より少ないものの、一人当たりの研究費生産性が極めて高い大学です。経済産業省の分析によれば、「企業との共同研究1件あたり研究費」や「研究者1人あたり共同研究費」で全国トップを記録しており、少数精鋭で大きな成果を上げています。
伝統的に素材・化学・エレクトロニクス分野に強く、これらの領域で日立製作所、東芝、ソニーなど大手電機メーカーとの共同研究を数多く抱えます。また、近年注力している人工知能(AI)・データサイエンス分野では、IT企業やスタートアップとの協業プロジェクトも立ち上がっています。
産学連携収入では約90億円規模(推計)とトップ10中では下位ですが、企業からの受入額では国内6位(約40.6億円、2022年度)に位置し、大学規模を考えれば際立つ実績です。研究力の高さから国の大型プロジェクト(例えば次世代スーパーコンピュータ開発など)にも参画し、外部資金を得ています。「小さくても輝く」産学連携モデルを体現する大学と言えるでしょう。
8位:北海道大学

北海道大学は北日本唯一の帝国大学として、多彩な分野で産学官連携を展開しています。特に農学・水産学・獣医学といった生命産業分野での産業界との協働が盛んです。北海道という土地柄、食品メーカーや農業関連企業との共同研究が多く、機能性食品の開発や作物の品種改良、酪農技術の高度化など実用志向の研究が進められています。
また、寒冷地研究や環境科学でも国内随一の知見を持ち、寒地土木技術で建設会社と、気候変動対策でエネルギー企業と連携するなど地域課題に根差した研究も特徴です。企業からの研究資金受入は約25億円(2022年度)で全国9位ですが、官公庁からの大型委託研究(例えば環境省や文科省の国家プロジェクト)を含めた総額では約80億円規模と見られます。
北海道大学は産学リエゾン本部を中心に地域企業とのマッチングにも力を入れており、地元自治体と共同でオープンイノベーション拠点を設けるなどの試みもあります。広大なフィールドと伝統的な研究力を背景に、地域資源と大学の強みを活かした連携で着実に成果と資金を獲得している点が北大の特色です。
9位:慶應義塾大学

慶應義塾大学は産学連携収入で私立大学中トップに立ち、総合でもトップ10圏内に位置します。その背景には、医学部と理工学部という二大研究部門の存在があります。慶應義塾大学医学部は国内有数の規模と実績を持ち、製薬企業や医療機器メーカーからの臨床研究や治験の委託が多く寄せられています。
再生医療、新薬開発、AI診断など先端医療分野で企業との共同研究契約を数多く締結しており、これが収入の大きな柱です。また理工学部・大学院(湘南藤沢キャンパス等)では、ICT・デジタル領域の産学連携プロジェクトに注力しています。通信大手やITベンチャーと協働した5G通信、フィンテック、次世代インターフェースの研究など、時代のニーズに合ったテーマ設定で民間資金を呼び込んでいます。
慶應は創立者・福澤諭吉の時代から民間との結びつきが強く、大学発ベンチャー輩出にも積極的です。近年では学生・教員スタートアップ支援制度を整備し、企業と共同でアクセラレータプログラムを実施するなど、新たな産学連携の形も模索しています。収入規模自体は国立上位校に比べれば小さいものの(推定約40億円)、医工連携や産業界とのネットワークの強さで存在感を示すのが慶應義塾大学です。
10位:筑波大学

筑波大学は茨城県つくば市に位置し、周辺に多数の国立研究機関が集積する科学技術拠点の中心にあります。その立地を活かし、産官学連携プラットフォームとして異分野融合の研究に取り組んでいる点が特徴です。筑波大学は宇宙航空研究開発機構(JAXA)や産業技術総合研究所(AIST)と隣接しており、宇宙工学やロボット技術分野で共同研究や人材交流が行われています。
また、高エネルギー加速器研究機構(KEK)などとの連携を通じて最先端基礎科学の成果を産業応用につなげる試みもあります。企業との関係では、つくば市内の科学ベンチャー企業や首都圏のメーカーとの共同研究が活発です。特に環境モニタリング技術やバイオテクノロジー分野でスタートアップと共同プロジェクトを立ち上げ、新産業の創出にも貢献しています。
研究収入は約30億円台(推計)でトップ10の中では小規模ですが、企業からの受入額ランキングでは国内11位につけています。筑波大学は「産学官連携プロジェクト型教育」の実践校としても知られ、学部生・大学院生が企業と協働研究する教育プログラムを提供しています。広範な研究機関ネットワークと教育研究の融合により、新しい価値を生む産学連携を推進している点が筑波大学の持ち味です。
まとめ
日本の大学における産学官連携の現状は、「ごく一部の研究大学が巨額の外部資金を集める一方で、多くの大学は小規模な連携に留まっている」ことがわかりました。
トップ大学の事例からは、組織横断的な連携推進機構の整備や、大型研究プロジェクトの誘致、企業ニーズに応える研究シーズの強化など、収入増加につながる戦略が見えてきます。
政府もこの動きを支えるため、2016年のガイドライン策定や各種支援策を講じており、今後も大学の連携力強化に向けた政策が続く見通しです。実際、令和4年度から5年度にかけて産学連携による研究費受入額はさらに増加して約4,720億円に達しており、今後も右肩上がりが期待できると言えるでしょう。
